(1) ストレスチェック義務化の背景
前述の労働安全衛生法は従来、従業員のフィジカル面での健康管理(健康診断など)に重点を置いていましたが、2000年代以降に職場のストレス問題が深刻化する中、メンタルヘルス対策強化の必要性が高まりました。
まずは、下記のグラフをご覧下さい。
こちらは、2000年から2012年までの、精神障害等の労災補償状況をグラフ化したものです。
精神障害等での労災の請求件数は、2000年の6倍。
認定件数は13倍にのぼり、うち認定者で自殺した件数は5倍に増加しています。
精神障害に起因する労災認定の主な理由は、下記の通りです。
ケガや心的外傷などを原因とする精神障害よりも、対人関係や仕事そのものに起因する精神障害の割合がかなり多くなっています。
順位 | 出来事の 類型 | 具体的な出来事 | 認定件数 | うち自殺 |
---|---|---|---|---|
1 | 対人関係 | 上司とのトラブルがあった | 231 | 27 |
2 | 仕事の量・質 | 仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった | 127 | 27 |
3 | 対人関係 | (ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた | 115 | 7 |
4 | 事故や災害の体験 | (重度の)病気やケガをした | 92 | 4 |
5 | 事故や災害の体験 | 悲惨な事故や災害の体験、目撃をした | 82 | 0 |
下記のグラフは、全自殺者における労働者の割合を表しています。
どの年代においても、全件数の全体の約4分の1を労働者が閉めています。
人口10万人あたりの年齢別死因順位と死亡率を見ると、20代~40代という、まさに働き盛りの年代において自殺が第1位を閉めており、40台50台においての死因も自殺が多い傾向にあります。
第1位 | 第2位 | 第3位 | ||||
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年齢 | 死因 | 死亡率 | 死因 | 死亡率 | 死因 | 死亡率 |
20~24歳 | 自殺 | 20.8 | 不慮の事故 | 6.8 | 悪性新生物 | 2.9 |
25~29歳 | 自殺 | 21.4 | 不慮の事故 | 5.5 | 悪性新生物 | 4.5 |
30~34歳 | 自殺 | 21.5 | 悪性新生物 | 8.5 | 不慮の事故 | 5.6 |
35~39歳 | 自殺 | 22.2 | 悪性新生物 | 16.8 | 心疾患 | 7.1 |
40~44歳 | 悪性新生物 | 30.2 | 自殺 | 22.8 | 心疾患 | 12.5 |
45~49歳 | 悪性新生物 | 56.6 | 自殺 | 26.6 | 心疾患 | 21.2 |
50~54歳 | 悪性新生物 | 107.5 | 心疾患 | 33.4 | 自殺 | 29 |
55~59歳 | 悪性新生物 | 186.1 | 心疾患 | 49.9 | 脳血管疾患 | 32.2 |
60~64歳 | 悪性新生物 | 321.5 | 心疾患 | 79.7 | 脳血管疾患 | 45.6 |
このように過去のデータを見ると、企業におけるメンタルヘルス対策強化の必要性は一目瞭然です。
また、厚生労働省が行った調査によると、仕事に強い悩みやストレスを抱えている労働者の割合は、ここ数年5~6割程度で推移を続けており、過去1年間でメンタルヘルス不調により連続1カ月以上の休業、または退職をした労働者がいる事業場は、2013年には全体の10%に上ります。
2013年時点では6割の事業場が何らかの対策に取り組んでいますが、未だに4割の事業場では対策ができていないのが現状です。
未だに取り組んでいない事業場側の理由は、
①「該当する労働者がいない」(15.2%)
②「取り組み方が分からない」(9.9%)
③「必要性を感じない」(8.5%)などです。
そこで、2014年6月に可決した「労働安全衛生法の一部を改正する法律」の改正事項の1つに、50人以上の労働者を有する職場でのストレスチェックの義務化が盛り込まれたのです。
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